『ミツバチの羽音と地球の回転』

国士舘大学町田キャンパスで、「生命科学と21世紀社会」第4回として「クローン技術」について講義した後、渋谷に移動し、ユーロスペース『ミツバチの羽音と地球の回転』を観る。いわずと知れた鎌仲ひとみ監督の話題作のアンコール上映である。実は、最初の公開のときに見のがしていたので。
僕が観た回の前の回で監督があいさつしたらしく、終了後、ロビーでたくさんの人が著作やDVDを手にして監督のサインをもらっていた。いまというタイミングもあるが、ドキュメンタリー映画でこんなに人が集まるようになったとは、ある意味、感無量…って映画関係者でもない僕が言うことじゃないか。僕が観た回でも、客席の半分ぐらいは埋まっていたし、終了後、ロビーには夜の回を待つ人がたくさんいた…。
映画そのものは、先日観た『ヒバクシャ』と同じく原発をテーマにしつつも、どちらかというと再生可能エネルギーの可能性へと聴衆の目を誘う。
カメラは主に、下関原発建設に揺れる祝島で反対運動に取り組む人々と、脱原発、いや脱石油して再生可能エネルギーに国を挙げて取り組むスウェーデンでそれを牽引する人々を追う。
北欧や再生可能エネルギーのよい側面だけを紹介している、という批判はたぶんあるだろう。しかし日本の主流メディアでは、つい最近まで、原子力や石油のよくない側面があまり伝えられてこなかったことを思えば、1つの映画が不偏不党である理由などないはず。
先日観た『ヒバクシャ』はイラクアメリカに取材し、核の問題そのものを問う作品であったが、『ミツバチの羽音と地球の回転』は祝島スウェーデンに生きる人々の暮らしにも焦点をあてている。社会派ドキュメンタリー映画を見慣れていない層もこれなら受け入れやすいだろう。実際、僕の印象では、ロビーで鎌仲監督にサインをもらっていた人は、ふだんドキュメンタリーなど観なさそうな中高年女性が目立っていた……と思うのだが、それこそ偏見かもしれない。
いずれにせよ、このタイミングで観れてよかったと思える作品だった。


なお会場では、「6paper」というオシャレな冊子が無料配付されていて、原子力の問題が簡潔に解説されていた。これが無料? なるほど末尾にエコロジー系のオシャレな店の広告がちゃんとたくさん入っている。ひと昔前だったら、原子力の問題を簡潔に解説した冊子など、市民団体がコピーで手作りしていたものしかなった。時代は変わったようだ。
そういえば先日、ポレポレ東中野で “原発映画” の特集をやっていたようだが、残念ながら行きそびれた。今度は新文芸座でもやるらしいことを、冊子と一緒にもらったフライヤーで知った。DVDになりにくそうなのを選んで観に行くかな。
『ミツバチの〜』を見終わった後、アップリンクに移動して『10000万年後の安全』を観たかったけど、体力が尽きて帰室。早く観ないと終わっちゃいそう。このタイトル、どうしてもウルリヒ・ベックの論考を思い起こさせる http://bit.ly/iVw8WJ


そういえばいま思い出したのだが、先週観た同じ鎌仲監督の『ヒバクシャ』では、ハンフォードの風下に住む人がクルマで監督を案内しながら、核施設周辺で健康被害が多発していることを教えるシーンがあった。そのなかで何度か、あの家では「奇形児」が生まれた、という台詞があった。登場人物の発言である。しかしカメラはそのことをとくに追ってはいない。ところが、映画情報を提供するあるウェブ媒体の記事では、「奇形児」が生まれたことが言及、いや強調されていた。
読者に衝撃を与えたいという記者の気持ちはわからないでもない。しかし、残念である。最近、ツイッターなどで話題になった浪江町の「耳なしウサギ」騒動と同じ意味で…。