『アイランド』再考

諸事情で『アイランド』をDVDで観直す。監督は、失礼ながら派手なだけで中身がない作品が多いマイケル・ベイ。『アイランド』は、彼の作品のなかではかなりまともなほうだろう。
地下にあるらしく、衣食住のすべてが管理された社会のなかで暮らす主人公は、何かがおかしいことに気づき始める。愛に目覚め、そこから逃げだそうとする……って、ジョージ・ルーカスが『スター・ウォーズ』の前につくった傑作『THX1138』にそっくりだ。
『アイランド』が劇場公開された2005年といえば、ファン・ウソク事件が明らかになった年である。まだセラピューティック・クローニングに期待が持たれていた時期といっていいだろう。劇中では、クローンたちは意識を持たない臓器の源にすぎない、とバイオ企業は顧客に説明していたが、技術的な問題があることがわかり、実は人間たちをつくっていた、というのがこの映画の設定。この展開って、もしかしてファン・ウソク事件が予言されていたのか……と言いたいところがだ、考えすぎであろう。
主人公たちが暮らす地下世界の描写は『THX1138』にそっくり。人間存在について問いかける深いメッセージが、いちおうは込められているにもかかわらず、無意味なアクションが多すぎて、それが観客に伝わりにくくなってしまっている。
ちなみにカズオ・イシグロ原作で最近映画化された『わたしを離さないで』は、『アイランド』と非常によく似た設定で、よく似たメッセージの込められた作品だが、観ている者にじわりと響く佳作である。映画作品としての価値は比べようもないほど、『わたしを〜』のほうが高い。