環境問題と優生思想(5):日本社会がもし…

 胎児の染色体異常などを調べる「出生前診断」で、2009年までの10年間、胎児の異常を診断された後、人工妊娠中絶したと推定されるケースが前の10年間に比べ倍増していることが、日本産婦人科医会の調査でわかった。(「出生前診断で異常発見し中絶、10年間に倍増」『読売新聞』2011年7月22日16時47分)

http://www.yomiuri.co.jp/science/news/20110722-OYT1T00585.htm

もし世界が、いや日本社会が、障害者差別もなく、もちろん優生思想的な考えを持つ人物もなく、社会福祉が完備されている、というありえない世界=ユートピアだとしたら? そこに原発事故が起きたら? 
放射線によって遺伝障害や先天障害が生じることに誰も騒いだりしないだろう。もしそこに胎児や受精卵の診断技術が輸入されてきたら? 誰もそのようなものを使ったりしないだろう。しかし現実の日本社会では、放射線による遺伝障害や先天障害をめぐって議論が起き、胎児診断の結果による中絶は増えている。
チェルノブイリ事故が起きたとき、1986年から1987年にかけて、日本で人工妊娠中絶が増えたというような傾向はどうもないらしい http://bit.ly/nNqBJw 。しかし今回は国内の事故である。また全国的な影響は見られなくても、地域を限定して数字を見ていくとどうなるだろう、と思わなくもない。考えるだけで憂鬱になってくる。
原発に批判的な一部の人々が、人々の「内なる優生思想」的なものに訴えるという方法で自説を主張している姿勢も気になる。ただし彼らは「一部」であり、彼らの姿勢に反発する人々が少なくないことは、不幸中の幸いかもしれない。