『ヒロシマ・ナガサキ ダウンロード』

夜、赤坂のTBSで、『ヒロシマナガサキ ダウンロード』というドキュメンタリー映画の試写を観る。この映画は、メキシコ在住の30代の監督が、友人と2人でカナダからアメリカに旅しながら、在カナダ・在米の被爆者、つまり広島や長崎で被曝した後にアメリカに移り住んだ日本人たちをインタビューしてその声を記録するとともに、自分たちの心情を記録したドキュメンタリー映画である。私小説ならぬ私ドキュメンタリーともいえるし、ロード・ドキュメンタリー・ムービーともいえる。
監督は何年もかけて、在外被爆者たちをインタビューし続けており、僕の記憶に誤りがなければ、すでに60人ほどの記録があるという。だからこの映画で描かれる2人の旅も、思いつきで行われたわけではない。それはそうだろう。70分ほどの映画のなかで、被爆者たちのインタビュー以外の時間が結構多い。自分たちが心情を吐露したり、偶然泊まった宿のオーナーがアウシュビッツの生き残りで、彼女の声を紹介したりしている。
実際、2009年3月になされたというこの旅だけでも、監督らは20人近くの当事者をインタビューしている。そのうち映画のなかで大きく取り扱われたのは、主に5人。彼らの声に自分たちの声を重ねることなど、相当の確信がないとできないはずだ……と、監督自身も終了後の質疑応答で述べていた。(ちなみに質疑応答というかディスカッションを仕切っていたのは烏賀陽弘道さん。僕はこの映画の存在を彼に教えてもらった。)
監督はこれまでに実施した被爆者のインタビュー記録を、国立長崎原爆死没者追悼平和記念館に寄贈しているという。この映画のアウトテイク映像(?)も、なんらかのかたちでデータベース化されるのだろう、きっと。
なお「ダウンロード」とは通常、ウェブ上のソフトウェアやファイルをパソコンに落とすことを意味するが、この映画では、ヒロシマナガサキの記憶が、監督たちを通じて、観客にダウンロードされる。「ダウンロード」には「荷を下ろす」という意味や「南下する」という意味もあることには、終了後のトークで知った。
ヒロシマナガサキダウンロード』はこの8月、オーディトリウム渋谷で公開される。http://bit.ly/qi14Qb
いうまでもないことだが、この映画は3.11の前につくられたものである。フクシマを含むTOHOKUの記憶は、次の世代に、どのようにダウンロードされていくのだろうか。