『博士の異常な愛情』

諸事情で、『博士の異常な愛情 または私は如何にして心配するのを止めて水爆を愛するようになったか』をDVDで観る(長いタイトルだなあ…)。いわずと知れたスタンリー・キューブリックの代表作。僕はたぶん20年ぶりぐらいに観た。ストーリーは、あちこちで指摘されている通り、先日観た『未知への飛行 フェイルセイフ』とよく似ている。
舞台は冷戦時代。水爆を積んだ爆撃機ソ連への攻撃命令を受ける。『未知への飛行』では機械のミスが原因だったはずだが、『博士の異常な愛情』では気の狂った将軍が命令を出す。それを止めようとする人々がいて、それを煽る人々がいる。大統領はソ連の首相とホットラインで話し、事態を収束させようとするが、うまくいかない。結局、爆撃機は、ソ連に水爆を落とす。ソ連は「皆殺し装置」とかなんとかいうシステムを持っているらしく、すぐにアメリカに報復する準備ができている。映画のタイトルにもなっているストレンジラブ博士は、それを得意げに解説する。
『未知への飛行』がシリアスドラマであるのに対して、『博士の異常な愛情』はブラックコメディである。それにしてもよく似ている。どちらも原作の小説があるらしく、まったく別のものなのだが、盗作騒動もあったらしい。両方観ると、冷戦や核戦争の問題を理解できる……と言いたいところだが、残念ながら僕はそこまで言う自信はない。
最後のストレンジラブ博士の解説によれば、水爆によって拡散する放射性物質(核種は失念)の半減期は100年ほどだと説明されるが、3.11以降、プルトニウム半減期は10万年だと聞かされてきた僕らからすると、短いような気もする。またストレンジラブ博士は、アメリカ合衆国は炭坑を利用して地下に都市をつくり、そこで原子力でエネルギーをつくりながら暮らせばよい、と進言する。もちろんそこで暮らせるのは国民全員ではなく、エリートを選ぶ。優生学的なビジョンも語られる。この博士の提案を聞いて、『THX1138』をはじめ、核戦争らしきことが起きて地上では人が住めなくなり、地下に都市、というか、管理社会をつくって人々が暮らしている、という設定の映画がやまほどあるが、それらのなかには『博士の異常な愛情』のストレンジラブ博士の提案にインスピレーションを得たものもあるのかもしれない、と思った。まあ、そんなに奇抜なアイディアではないので、僕の考えすぎか。
そういえば、Mogwaiの曲に「スタンリー・キューブリック」というタイトルのものがある。Coccoのプロデューサーとしても知られる根岸旨孝、やはりCoccoのプロデューサー長田進、佐野元春のバンドでドラムを叩いていた古田たかしは、「Dr.Strangelove」というユニットを組んでいたことがある。キューブリックの影響力はさすが。キューブリックの遺した作品のなかで、僕がいちばん好きな作品はもちろん『2001年宇宙の旅』である。何十回観ても飽きない映画の1つ。そういえば、今年は2011年だったりする。