『天皇ごっこ 見沢知廉・たった一人の革命』

僕のところにはずいぶんマニアックな映画の試写状がなぜかよく届くが、今日、新橋のTCC試写室で観た『天皇ごっこ 見沢知廉・たった一人の革命』もその1つ。監督は大浦信行氏。「天皇コラージュ事件」で有名な人らしい。この作品はタイトル通り、作家・見沢知廉の人生を追ったドキュメンタリー……と言いたいところだが、演出が少し変わっていた。
幼いころ、自分には双子の兄がいる、と教えられて過ごし、東京に出てからは見沢知廉の小説の舞台化作品で見沢役を演じたこともある女優(!)で、その自分の兄が見沢だと信じている女性が、生前の見沢を知るキーパーソンたちを訪ねて話を聞く。
ところどころにおそらく見沢の人生や作品をイメージしたらしい幻想的なシーンが挟み込まれる。ある関係者へのインタビュー場面では、その横で第二次世界大戦時の日本兵を思わせる人物がアメリカンなジャンクフードをパクついていた。僕には意味不明だったが、少なくとも記憶には強く残っている。
インタビューされる人物には、一水会顧問の鈴木邦男氏や作家の雨宮処凜氏もいる。鈴木氏は「見沢の師」とのこと。雨宮氏は見沢に強く影響されたらしい。
僕は見沢氏についてはあまりよく知らないが、たぶん一冊だけ読んだことがある(『囚人狂時代』?)。見沢は左翼と右翼の両方の活動を経験し、その過程で殺人事件に荷担して懲役を受け、その間に書いた小説が賞を取り、作家になった人物だという。そして最後には自殺した。自傷経験もあるようだ。
そんな彼が「生きづらさ」について書き続けている雨宮氏に影響を与えたというのは、興味深いといえば興味深いし、当たり前といえば当たり前のような気もする。たいへん強く印象に残る映画作品であり、見沢をよく知らない僕もまた彼に興味を抱かせられたのだが、もう少し見沢自身が遺した言葉を引用してもよかったのではないか。もちろんテキスト(書き言葉)の朗読でいい。冒頭とラストで、彼のスピーチらしき音声が使われていたが、内容を聞き取りにくかったことが少し残念。しかしそれでも、その音声から、彼の感情のうねりのようなものが十分に伝わってきたことも付言しておく。