『みえない雲』

諸事情でドイツ映画『みえない雲』をDVDで観る。この映画の存在自体、誰かのツイートで最近知ったのだが、隣町のTSUTAYAにあったので借りてみた。映画は2006年に公開されたが、原作は1987年に書かれている。ドイツではベストセラーになったものらしい。
ある高校生の少女が転校生の少年と恋に落ちる。そこでサイレンが鳴り、原発事故を知らせる放送が学校に鳴り響く。逃げ惑う高校生たち。街も騒然とし、みなクルマで逃げ始める。(この街は原発のすぐ近くらしい。)少女はいったん帰宅し、出張中の母親と電話で話し、弟といっしょに自転車で街に出る。その途中で弟は……。街はパニック状態となり、みんな我先に列車に乗ろうとする。列車に乗り遅れた少女は気を失う。少女が目を覚ますと、そこは病院だった。逃げ遅れ、放射線を浴びた大勢の人たちがケアされている。やがて少女の髪の毛は抜け始め……。原発事故に翻弄される世界が、少女と少年の視点で描かれる。
映画では、原発事故で街はパニックとなるが、ドイツ人の気質はあのようなナイーブなものなのだろうか。また少女の症状は白血病のように見えるが、原発で働いているわけでもない彼女があれだけの急性症状を見せるとは、どれだけの放射能漏れが起きたのだろうか。チェルノブイリ事故以上のように見える。
強制的な避難区域が段階的に設けられたり、節電らしきことが行われていたりすることは、3.11後に見ると、リアルに感じられなくもない。こうしたことが現実の大事故を経験していない時点で描かれたということは評価できる。
しかし映画というものは(というかフィクションというものは)現実をそのまま描くわけではなく、想像力とデフォルメの産物であることを想い出すべきであろう。少年と少女は何度も絶望によって奈落に落ち、そして希望によってそこから這い上がる。東日本大震災とそれによる原発事故を、現実に体験してしまった日本人から見れば、甘ったるいと感じられなくもないが、それでも悪い作品では決してない。