論文から

彼らの論文から実験内容や意義を要約していると思われる部分を抜粋しておきます。

卵母細胞のゲノムとそれに続く多能性幹細胞の作出によって、退行性のヒト疾患に影響する特定細胞の産出が可能になる。患者のゲノムを持つそのような細胞は、細胞置換に有益である。ここでわれわれはゲノム交換の後、ヒト卵母細胞の発生が、転写異常にかかわる卵割の後期で停止することを報告する。それに対して、もし卵母細胞のゲノムが取り除かれず、単に体細胞のゲノムが取り除かれるだけならば、結果としてできた三倍体細胞は、胚盤胞期まで発生する。そうした胚盤胞に由来する幹細胞株は、三胚葉すべての細胞の種類へと分化する。そして、多能性の遺伝子発現は、体細胞に由来するゲノムにもとづいてつくられている。この結果が意味するのは、卵母細胞を使うヒト細胞の初期化の実行可能性であり、卵母細胞のゲノムの除去がゲノム交換後の発生失敗の根本原因だと認識することである。(略)ヒト卵母細胞が体細胞を多能性状態へと初期化する能力を持つかどうかは、答えがないままである。現在では、体細胞の転写因子を強制発現することによりiPS細胞をつくることが可能だが、iPS細胞と胚由来の幹細胞との間の違いは、遺伝子発現、DNAメチレーション、分化能力について報告されている。それに加えて、iPS細胞への初期化はゲノムの完全性を損ない、“新規の”変異とコピー数の変化をもたらすようだ。ヒト卵母細胞を使う初期化がこうした異常なしで多能性の幹細胞をつくるかどうかは、決定されるべきことであり続けている。(略)研究用卵母細胞ドナーへの支払いをめぐるさまざまな見解を踏まえて、アメリカ生殖医療学会や国際幹細胞研究学会は、研究監視委員会の決定の下での支払いを認める、バランスのとれた指針を提案してきた。(略)われわれはこうした指針にしたがい、プロトコルを作成して、機関内倫理委員会とコロンビア大学の幹細胞委員会に審査され、承認を受けた。こうしたプロトコルでは、女性は、生殖用卵子提供プログラムに参加し、生殖目的の提供か研究への提供かを選ぶことができる。選択にかかわらず、同じ報酬を提供する。結果として、提供の決定は、研究への提供の以前に、そして独立してなされる。われわれが270個の成熟したヒト卵母細胞を使って研究したところ、卵母細胞のゲノムと体細胞のゲノムの交換はつねに発生の停止に至った。しかし卵母細胞のゲノムが取り除かれず、体細胞のゲノムが単に加えられるだけだと、活性化された卵母細胞は胚盤胞期まで発生した。こうした胚盤胞に由来するヒト幹細胞は、卵母細胞に由来する1倍体ゲノムと2倍体の体細胞ゲノムを含み、多能性状態へと初期化された。

http://www.nature.com/nature/journal/v478/n7367/full/nature10397.html