メディア報道から

英語圏のメディア報道から、重要だと思われる記述を抜粋しておきます。

「ニューヨーク幹細胞基金」のスコット・ノーグルとディーター・エグリ率いるチームは現在、基本に戻って患者由来の胚性幹細胞をつくるために卵母細胞を使う従来の方法論を向上させることを試みている。ある対照実験の一部でのラッキーなアクシデントによって、彼らは、成体の核を移植したとき、卵母細胞の核を残してしまった。卵母細胞の核が存在することによって、移植された成体の核を持つ胚が、通常よりもより発生することに彼らは気づいた。事実、それらは胚盤胞の段階まで進行した。胚性幹細胞を採取できる段階である。(略)ニューヨーク法によってつくられたこの胚盤胞は3倍体であり、移植された成体の核の通常の2倍体、すなわち2本のゲノムと卵母細胞の1本のゲノムを持つ。3倍体の細胞は不安定で、がんになる可能性があり、患者に移植することはできない。さらにいえば、このプロセスは治療に利用するにはあまりに非効率である。通常の胚細胞1セットをつくるために、63個の卵母細胞が必要なのだ。(略)その妥当性は研究のため、である。胚発生の過程を研究したり、とりわけ、なぜ山中博士の方法でつくられたiPS細胞が不完全に初期化されるのかを探るのである。山中博士が発見した4つ以外にも、別の因子が必要なのかもしれない。もしそれらが見つかれば、iPS細胞を治療のスタートポイントに戻せるかもしれない。まだ多くの難しいステップが残っているが。(略)ノグル博士とエグリ博士は、自分たちの方法論を、利用可能な患者由来胚盤胞をつくるのに適用することも望んでいる。もしヒトの卵母細胞の核が、あまりに早く抜き取られてしまえば、核を初期化するのに必要な因子を十分につくることはできなくなるだろう。もしそれが最初の細胞分裂の後にも残れば、移植された核と融合し、取り除くことができない。それが十分な初期化機能をしたとき、最後の瞬間にそれを抜き取り、患者自身の細胞に由来するノーマルな2倍体胚盤胞を得ることは可能であろう。(略)ニューヨーク幹細胞基金の研究者は、豊富な卵母細胞へアクセスできるという利点を持っている。というのは、彼らは、ドナーに8000ドルを支払うコロンビア大学のプログラムと協働しているからである。多くの倫理学者はドナーへの支払いは臓器マーケットを導くと懸念し、十分な卵母細胞が無償で提供されることを望んでいる。全米科学アカデミーは、ドナーは支払われるべきではない、という幹細胞ガイドラインを定めている。(後略)(「「幹細胞採取における後退の後、新しいアプローチが展望を示す」、『ニューヨークタイムズ』10月5日)

http://www.nytimes.com/2011/10/06/science/06stem.html?_r=1

科学者たちは患者の遺伝的コピーを治療におけるブレークスルーの可能性と見ている。『ネイチャー』で公表されたこの実験を行った科学者らは、糖尿病患者の部分的な遺伝的クローンである初期のヒト胚13個を作成した。このコピーは同一ではない。それぞれの胚は3セットの染色体を持っているからだ。1つが余分だ。このことが意味するのは、それぞれの胚は、もし子宮に移植され、妊娠させられても生存しないことである。このテクニックが有効な治療になるためには、研究者らは余分な染色体のセットを除去しなければならないし、効率的にヒトクローン胚をつくらなくてはならないだろう。(略)しかしながらこのテクニックは非効率的だ。エグリ博士らは270個の卵子で(実験を)始め、13個の初期胚をつくった。彼らはこれらからわずか2株の生存能力のある幹細胞株を得た。この方法論はヒトの卵子に依存する。卵子を研究目的で入手することは難しい。このケースでは、16人の女性が270個の卵子を提供した。彼女らは支払いを受けた。〔ジョージ・〕デーリー博士は、ヒトの卵子を入手することの難しさが、長期的に見れば、そのほかの初期化アプローチがより実現可能であることの理由であると考えている。(「クローンが幹細胞に希望を提供」、『ウォールストリートジャーナル』10月6日)

http://online.wsj.com/article/SB10001424052970203388804576613001386422180.html

ファン・ウソクの韓国のチームが嘘をついてクローンのヒトES細胞をつくったと主張してから7年が過ぎ、ついに、そうした細胞が現実につくられたようだ。(略)エグリとノグルが実験に成功した理由の1つは彼らは研究のために卵子を提供した女性に支払いをすることができたことだ。ニューヨーク州が2009年にそうしたことを認めたおかげである。実際のところ、エグリは、マサチューセッツ州ケンブリッジにあるハーバード幹細胞研究所のケヴィン・イーガンのラボで研究していた。イーガンは今週、同様の実験のために無料で卵子を提供してくれる女性を見つけることに彼のチームが無残に失敗したことを表明している。アメリカでは、女性は通常、体外受精を実施する不妊カップルに卵子を提供するさいには数千ドルの支払いを受ける。時間と不快に対する補償である。ニューヨークのチームは、すでに提供を決めた女性に、その代わりに研究のために卵子を提供することを望むかどうかを尋ねることでそのプロセスに相乗りした。同意した人は、体外受精卵子ドナーに与えられるのと同じ8000ドルを支払われた。すでに卵子を提供すると決めた女性にアプローチするということは「きわめてクリエイティブだ」とオハイオ州クリーブランドにあるケースウェスタン大学の生命倫理学者インソ・ヒュンは言う。彼は、このアプローチは、女性が金銭的理由のために提供するよう誘われるという懸念を少なくする、と考えている。しかしこの研究に対する倫理的障壁は残るだろう。ヒトES細胞の単離はいまなお胚盤胞を破壊することになるからだ。ニューヨークのチームの先例にならうことは、ほかのグループにとっては難しいであろう。全米科学アカデミーによって2005年に採択されたものを含む倫理指針のなかには、有償での提供に難色を示すものもある。カリフォルニアでは研究に使う卵子への支払いは法律で禁止されている。(「世界で初めてのクローンのヒトES細胞」、『ニューサイエンティスト』10月5日)

http://www.newscientist.com/article/dn21012-worlds-first-cloned-human-embryonic-stem-cells.html

クローンのヒト細胞の研究は、過去の科学的不正という亡霊を残している。しかしこの以前の研究への反応には、いまなお価値ある教訓がある。(略)セラピューティック・クローニングが卵子不足のために暗礁に乗り上げたとき、iPS細胞の熱狂がそのギャップを埋めた。アプローチ間の競争は激しく、今回の研究の著者らは、iPS細胞の多くの弱点が自分たちの研究を励ましたことを指摘する。しかし彼らの方法論もまだまだ先は長い。(略)もし研究者たちが卵子の中の魔法の要素を見つければ、再び興奮を呼び起こすだけでなく古くからの倫理的課題が再表面化するだろう。可能性のある方法論をめぐる誇大広告(熱狂)は、卵子マーケットを増長させる。それはおそらく正当化できない。(略)絶望した患者は、未承認で安全でない胚性幹細胞治療を提供する医師を見つけるだろう。こうした結果は俗っぽく見える。しかし合理的な興奮と非合理的な熱狂(誇大広告)の潜在性は残っている。(「“高利の”クローン(論説)」、『ネイチャー』10月5日)

http://www.nature.com/nature/journal/v478/n7367/full/478005a.html