『コンテイジョン』

昨日昼間、元ちとせのライブを観る前に、六本木ヒルズにあるTOHOシネマズで『コンテイジョン』を観てきた。
アウトブレイク』など感染症を扱った映画は少なくないが(ゾンビ映画はべて感染症映画だw)、トップクラスの出来映えといっていいだろう。
物語は「2日目」から始まる。香港帰りのアメリカ人女性が謎の熱病で死亡する。彼女の息子も。彼女の夫(息子の父親ではない。息子は妻の連れ子)はなぜか発症しない。一方、日本でも香港帰りの男性がバスの中で倒れ、その様子の動画がインターネットに流出した。それを見たロンドンのフリージャーナリストは、新聞に売り込もうとするが、断られ、ブログで情報を発信し始める。彼は新聞社の女性編集者に対して、こう吐き捨てる。「紙のメディアは瀕死だ!」。
同じような症状で倒れる人が世界中で続出する。それを受けて、CDC(疾病管理センター)とWHO(世界保健機関)が動き出す。アメリカを含む各国政府も危機対策に乗り出す。人々は次々と死ぬ。ミネソタで調査を進めていたCDCの研究者も倒れる。致死率は20パーセント。3カ月で、世界中で数百万もの人が死亡。フリー・ジャーナリストはインターネットを通じて、保健当局と巨大製薬企業の癒着を批判し、「レンギョウ」と呼ばれる漢方薬のようなものがこの疾患に効く、と主張する。
一方、UCLAの研究者がウイルスの正体を解明、CDC(?)の研究者がついにワクチンを…。
映画の完成度はきわめて高い。撮影はいつ行われたのだろうか? 体育館か何かを急遽改造してつくった隔離施設、生活必需品や医療を求める人々の姿、政府の「リスク・コミュニケーション」の失敗、ネット上で崇拝される自称ジャーナリスト……どこかで見たことのあるものを連想させずにはいられない。(暴動は日本では起こっていないが。)バイオセーフティレベル4のラボでの実験の様子など見所は多い。ともに連れ子がいる夫婦、その家庭事情などアメリカ社会、というか現代社会が抱える問題の一端もわずかだが描かれる。
しかし最大の問題は、ストーリーの乏しさであろう。感染症が拡がり、多くの人々が死ぬ。医師や研究者が英雄的な行動をし、ウイルスの正体がわかり、ワクチンがつくられる。自分や家族を守るために研究者を誘拐した者、インターネットで人々を扇動した者は、制裁を受ける。あまりにストレート。何のひねりも矛盾もない。僕は最後にもう一つぐらい大展開があると思っていたら、終わってしまった。そしてエンドロールには、CDCの全面的な協力で制作されたと…。
なるほど、SARSやブタインフルエンザ(H1N1)、HIV/AIDSなどの経験がていねいに踏まえられている。
僕としては、マット・デイモン、マリオン・コティアール、ローレンス・フィッシュバーンジュード・ロウ、ケイス・ウィンスレットという超豪華キャストでありながら、あまりに教科書的な展開が残念。繰り返すが、もちろん決して悪い映画ではない。科学コミュニケーションの話題、教育素材にはいいだろう。
しかし映画としての評価は別なのだ。