『図書新聞』「11年下半期読書アンケート」

書評紙『図書新聞』12月24日付(3043号)の「11年下半期読書アンケート」に寄稿した(4面)。

2011年下半期読書アンケート
評者◆原武史、蜂飼耳、佐藤泉、中村邦生、安田敏朗井口時男、井川博年、伊藤正敏郷原宏金森修、古賀徹、荒川洋治、佐々木力、細見和之崎山政毅阿木津英、樋口覚鈴木将久青木孝平、天笠啓祐、川村邦光、小倉英敬、小倉孝誠、小池昌代、上村忠男、新城郁夫、加藤一夫、森浩一、粥川準二、中金聡、坂野徹、鶴見太郎澤田直、船戸満之、川本隆史塚原史布野修司、福本英子、野上暁、鈴木創士、柏木博、島谷謙、天沢退二郎石原千秋、高橋敏夫、巽孝之竹中佳彦、藤沢周

http://toshoshimbun.jp/books_newspaper/week_article.php

僕は今年下半期のベスト3として、レベッカ・スクルート『不死細胞ヒーラ』(中里京子訳、講談社)、児玉真美『アシュリー事件』(生活書院)、ダニエル・ウッドレル『ウィンターズ・ボーン』(黒原敏行訳、AC Books)の3冊を挙げた。もちろん順不同。

不死細胞ヒーラ  ヘンリエッタ・ラックスの永遠なる人生

不死細胞ヒーラ ヘンリエッタ・ラックスの永遠なる人生

アシュリー事件―メディカル・コントロールと新・優生思想の時代

アシュリー事件―メディカル・コントロールと新・優生思想の時代

ウィンターズ・ボーン

ウィンターズ・ボーン

  • 作者: ダニエル・ウッドレル,黒原敏行
  • 出版社/メーカー: ACクリエイト
  • 発売日: 2011/10/22
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
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1つ言い訳させてもらおう。僕は同紙の「上半期読書アンケート」にも寄稿していて、そのときはカウシック・S・ラジャン『バイオ・キャピタル』(塚原東吾訳、青土社)と美馬達哉『脳のエシックス』(人文書院)とカズオ・イシグロ『わたしを離さないで』(土屋政雄訳、ハヤカワ文庫)の3冊を挙げた。
バイオ・キャピタル ポストゲノム時代の資本主義

バイオ・キャピタル ポストゲノム時代の資本主義

脳のエシックス―脳神経倫理学入門

脳のエシックス―脳神経倫理学入門

わたしを離さないで (ハヤカワepi文庫)

わたしを離さないで (ハヤカワepi文庫)

そのときも今回も、3.11関係の本を選ばなかった。とくに原発事故関係の本については、共著書『教えて!科学本』(洋泉社)を書いた関係もあって、それなりの数を読んではいるのだが、あえて上半期にも下半期にも、1冊も選ばなかった。地震津波関係の本も同様である。
教えて!科学本 今と未来を読み解くサイエンス本100冊

教えて!科学本 今と未来を読み解くサイエンス本100冊

それはどういうことかというと、第一に、起きたことがあまりに大きすぎて、どの本を選んでも物事の一面のみを切り取ることになってしまうと思ったから。第二に、たとえ直接的に3.11(地震津波原発事故)を扱った本ではなくても、どうしても3.11を重ねて読んでしまうことがしばしばあるので、あえて外すのも一つの方針としてありではないかと思ったからである。
また、下半期に選んだ3冊には、共通点がある。
3冊とも舞台がアメリカであること、中心となる登場人物が女性であることである。(著者は3冊中2冊が女性。また3冊中2冊はいわゆる南部ゴシックの雰囲気がある。)このことは単なる偶然だが、何かを示唆しているようでもある。アメリカ以外の世界もまた、この3冊が描いたような暗鬱なものになるのろうか…。
来年もまた、良著とめぐりあいたいものだ。