『風が吹くとき』
か「昨日はご苦労様でした」
さ「ご苦労様。いやあ、人集まってよかったね」
か「ほんと。申し込みが5人になるまではひやひやだった」
さ「でも当日ふたを開けてみたら満員御礼」
か「イベントはやってみるまでわからないってことですね」
さ「でも反省点も。アンケートなどでは『早口すぎる』だってさ」
か「確かに盛り込みすぎだったかも。次回からはまずこちらから出すものはもう少し少なめにしたほうがいいかも」
さ「そうだね。でもね、ほんとはもっとしゃべりたいことがあるんだけどね」
か「内容はもちろんのこと、作品も。でね、いまさら遅いんだけど、『風が吹くとき』を観直しましたよ」
さ「核戦争アニメの傑作ですね。でも、あなたは音楽のほうに興味があるんじゃないの?」
か「まあね。僕が最初にこのアニメ映画を観たのは大学生のとき。音楽をピンク・フロイドのロジャー・ウォーターズが担当していて、核戦争を描いたものだとどこかで読んで、たぶんVHSのビデオを借りて観たと思う」
さ「オープニングはデビッド・ボウイだけどもね」
か「途中、ジェネシスも」
さ「音楽の話はその辺にして、どんな話か説明してよ」
か「舞台はイギリスの田舎町、時代は冷戦期だと思う。主人公、というか登場人物は老父婦のみ。夫は新聞やラジオで戦争が起きそうなことを知り、図書館で、政府が発行した、核シェルターの作り方、みたいなパンフレットを手に入れる。シェルターといっても、壁に板を立てかけたものだけなんだけど」
さ「それで戦争は起こるの?」
か「起こる。ラジオで政府が『あと3分でミサイルが届きます。室内に退避してください』と警告し、夫婦はその手作りシェルターに潜り込む。そこに核と思われる爆発が起きる。夫婦は破壊された家の中で数日間を過ごす」
さ「結末はいわなくてもいいけど、救いは?」
か「ない」
さ「やっぱりね」
か「映画は2人の数日間を淡々と描くだけ。でね、10何年かぶりに観たら、完全なアニメじゃないことに気づきましたよ。ところどころに写真が使われている」
さ「最近は、アニメと実写との融合がなされていてその境界はあいまいだ、なんていうけど、そういう試みはそのころから行われていたんだね」
か「そうみたい。たぶんリアルに見せるため。あと、夫が、前回の戦争を思い起こすとき、それはもちろん第二次世界大戦のことなんだけど、敵のトップとして挙げるのは『ヒトラー、ゲーリング、ムッソリーニ』なんだよね」
さ「なんだ、日本はガン無視されているの」
か「そうらしいだけど、ヒロシマの原爆のことはちゃんと夫婦の会話のなかに出てくる」
さ「へえ」
か「あ、言い忘れたけど、今回の敵はソ連ね。『ロシア』って言っていたけど」 さ「冷戦期だからね」
か「でも夫婦はしばしば『ドイツ兵が来る』と間違える。間違えていないときには『ロシアの人たちっていい人そうなのにね』なんて言ったりもする」
さ「ようするに核戦争は核戦争であって敵がどの国であっても、恐ろしい結果を招くってことを言いたかったのでは」
か「僕もそう思うよ。国際政治で敵であるかどうかと人間として好きかどうかは別ってこともね」
さ「なるほど。いい作品そうだね」
か「うん、いい作品だよ。日本公開は1987年」
さ「チェルノブイリ事故の翌年」
か「イギリス本国では1986年」
さ「事故と同じ年か。そしてソ連解体までもう数年…」
か「そう。僕自身はソ連が解体している最中にビデオで観たんじゃないかな。途中、妻は「今度の敵は誰?」なんていうけど、冷戦が終わって、敵なんてますます見えにくくなっている。いまでも観る価値十分にある作品だよ」
さ「問題はわれわれのトークライブに盛り込む余地がもうまったくないってこと(苦笑)」
か「まあ、そうなんだけど、話題を厳選するためには、分母が多くないとね」
(とりあえず了。以上、某事情で対談調でお届けしましたが、「か」と「さ」は架空の人物です!)