『第九軍団のワシ』

夕方、六本木シネマートで『第九軍団のワシ』という映画の試写を観る。監督は『消されたヘッドライン』のケヴィン・マクドナルド。原作は同名の歴史小説。映画の舞台は、ローマ時代のイギリス。
ローマ軍の第九軍団が突如、イギリス北部で消えた。名誉の象徴である黄金のワシとともに…。それから20年後、第九軍団の隊長の息子マーカスもまたローマ軍の将校となり、イギリスに赴いた。マーカスは先住民とのある戦いで健闘するものの負傷し、療養生活を余儀なくされる。やはり軍人だった叔父の下に身を寄せていたのだが、ある日観戦していた闘技で、殺されかかっていた奴隷エスカを助ける。
そんなとき、イギリス北部の神殿にワシがあるという噂を聞き、マーカスは現地語のわかるエスカを従えて、ワシを取り戻し、父の汚名を晴らす旅に出ようとする。叔父はそれに反対する。「エスカはブリトン人だ、2人になったらお前を殺す」と。彼らは北へ旅立つのだが……というのがこの映画のあらすじ。
どうしても思い出してしまうのは、リドリー・スコット監督、ラッセル・クロウ主演の『グラディエーター』だ。『グラディエーター』では冒頭で、“野蛮人”らがローマ軍の使者の首を切って殺し、それを知った主人公が「立派な態度だ」と言って、彼らと一戦をまじえる。『第九軍団のワシ』でも、“野蛮人”らがローマ軍の砦の前で、捕らえた偵察隊を殺し、それから戦いが始まる。そういえば、『キング・アーサー』も、“野蛮人”との戦いが冒頭にあった。
どの映画でも“野蛮人”は異形のものとして描かれるなど、“ローマ目線”が非常に気になる。今回の映画も例外ではなく、「アザラシ族」の描かれ方は“野蛮人”そのもの。大昔の西部劇みたいだ。いいのか、そんな侵略者の視線で映画つくって…。
『第九軍団のワシ』では、同じ「ブリトン人」でも、エスカは、アザラシ族とは違う者として描かれる。その分だけマシともいえるのだが、彼の立ち位置は、『ロビンソン・クルーソー』のフライデーあたりか? 欧米の歴史映画が、ローマやギリシャの視点でのみ描かれ、ヨーロッパの先住民やイスラムが、あくまでも“他者”として表象されるのは、仕方ないといえば仕方ないのだが、気になるといえば気になる。それでも、マシになっているような気もする。
それで僕はこの映画がつまらなかったのかといえば、そうではなく、結構面白かった。ストレートな自己成長の物語は悪くないと思うし、アクションや当時の雰囲気の再現もまあまあ。よけいなロマンスがなかったことには好感。いくつか気になる点がないわけでもなかったが、おそらく求めすぎであろう。