『ブラッド・ワーク』再訪

か「今日は『ブラッド・ワーク』をDVDで見直しましたよ」
さ「あれ、原稿の追い込みで忙しいんじゃないの?」 
か「忙しいよ。だから簡単に」 
さ「そ。じゃあ直球で。どうだった? トークのネタに使えそう?」 
か「たぶんね。ネタバレしちゃうと、ようするにシリアル・キラーが刑事とのゲームを楽しみ続けたいために、心臓病で倒れた刑事と同じ珍しい血液型の人を殺し、いや脳死させて、その心臓が刑事に移植されるよう仕組んだ、という話」 
さ「思いっきりネタバレしてますね」 
か「あんまり時間ないし、2002年の映画だからね」 
さ「ま、いいか。珍しい血液型って?」 
か「AB型のCMV抗体陰性。つまりサイトメガロウイルスに感染していなくて、その抗体を持っていないということ。日常生活ではとくに問題ないんだけど、輸血される場合には、同じCMV抗体陰性が求められる。そのため日赤はCMV抗体マイナスの人には積極的に献血を求めているらしい臓器移植も同じで、血液型が同じであることが求められる。イーストウッド演じる刑事は、AB型なので、ふつうのAB型だったら、AB型、A型、B型、O型、どの血液型からでもOKのはずだけど、彼はCMV抗体陰性でもあるので、それもドナーの条件になる」 
さ「なるほど。でも臓器移植で問題になるのって、むしろHLA(組織適合抗原)じゃないの?」 
か「そうなんだよね。でもその話は、この映画では出てこなかったと思う」 さ「なーんだ」 
か「でもね、興味深いポイントはほかにもあったよ。主人公は、ドナーの姉から犯人を捜すように頼まれ、彼は自分が生きていることに責任感を感じて、それに取り組む。免疫抑制剤飲みながらね。当然ながら主治医は怒るわけだけど、それに対して彼は、脳死の99パーセントは事故だけど、自分が心臓をもらった相手は殺人で死んだんだ、と言う。この数字が正確かどうかはわからない。けど、この台詞から、日本でよくいわれる「ドナー不足」の意味が類推できるでしょ」 
さ「ああ、なるほどね。ドナー不足とは…」 
か「『脳死者不足』ってこと。そして脳死者が不足している社会というのは…」 
さ「安全な社会?」 
か「そう。ご承知の通り、脳死の原因で多いのは交通事故と銃犯罪。後者は、アメリカでは深刻、日本ではまあ、ないと考えていい。前者、つまり交通事故も、年々少しずつだけど減っている。日本は脳死者が出にくい社会なんですよ」 
さ「脳死者が出にくい社会は安全な社会。もし『ドナー不足』がほんとに深刻で、それを解決したいのだとしたら…」 
か「そこから先を話すのは、ひどいブラックジョークになるのでやめよう」 
さ「そうだね。確かに」 
か「でも、いわゆる臓器移植だけでなく、献血のことを知るためにも、この映画はいいんじゃないかな」 
さ「登場人物たちは定期的に献血していたみたいだかね。献身的に」 
か「物語的にはありえない話なんだけど、僕らの身体が生物学的に一人ひとり違うってことを知るのにもいい映画だと思うよ」
さ「なるほどね」
(了)

……というわけで、いつものように、「か」と「さ」は、架空の人物ですので、ご了承ください(笑)。