『サウダーヂ』

その日の夜、同じ建物にあるオーディトリウム渋谷で『311』を観るつもりだったのだが、それまではずいぶん時間がある。カフェで仕事に没頭……するつもりだったのだが、誘惑に負けて、そのオーディトリウム渋谷で遅まきながら『サウダーヂ』(富田克也監督)を観てしまう。すでに高く評価されている作品だが、評判通り、きわめて印象的な作品だった。舞台は山梨県甲府。そこでいわゆる土方をしながら、仕事がなくなることに脅えつつ、ヒップホップを歌ったり、タイ人の女の子のいるスナックに通いつめたりする青年など、甲府で暮らす、きわめて平凡な者たちの姿が、同地で暮らすブラジル人やタイ人とともに描かれる。すべてがつくりもののようでもあり、すべてが甲府の人々の現実を切り取っただけのようにも見えた。ストーリーらしいストーリーはほとんどない。しかし印象は強い。雰囲気としては、やはり地方都市の閉塞感をリアルに描いた傑作『海炭市叙景』に近い。